「cage」とは、株式会社デジタル・フロンティアが2024年4月よりフル3DCGで制作されたデジタルドールによる物語型Vtuberプロジェクトです。仮想空間「cage(鳥籠)」内に、何もインプットされていないただのデータであるデジタルドール「マリア・ブーゲンビリア」に物語を通じて「何が宿るのか」という壮大な実験を行っています。視聴者は配信を通してデジタルドールと交流を楽しみながら、実験に参加します。
この記事では、マリア・ブーゲンビリアの制作過程や技術、配信についてご紹介します。
マリア・ブーゲンビリアとは?
2024年4月から活動を開始した、デジタルドールVtuber。彼女は配信当初自身の心や記憶を持っていませんでしたが、視聴者とのコミュニケーション通じて徐々にマリアとしての人格を獲得しました。愛称はマリー。
彼女はいつか視聴者のみなさんとバラ園でお茶会を開くという夢を持ちながら、インターネット空間のどこかにある図書館から、配信活動を行っています。
マリア・ブーゲンビリアの技術的挑戦
デジタル・フロンティア社のVtuber「マリア・ブーゲンビリア」は、CG映像制作会社である同社が自社IPの確立とリアルタイム配信への挑戦として立ち上げられました。
通常のVtuberでは「Live2D」を用いた静止画ベースのビジュアルが主流となっていますが、同社は自社の強みを活かしてフル3DCGのVtuberの制作に挑むことにしました。
キャラクター「マリア・ブーゲンビリア」の制作期間は、外部イラストレーターによるデザインの完成後、モデリングに約1ヶ月、ボディやフェイシャルのセットアップに1か月半、UEへの移行に数週間という、合計約3ヶ月程度で完成にこぎ着けています。
マリアの制作工程では、キャラクターモデラ―やリガー、UEのテクニカルアーティストなどのべ10名程度が参加しました。
制作過程では、いくつかの技術課題がありました。例えば、長時間配信における衣装の制御です。1時間を超えるYoutube配信では、服などの揺れ物をシミュレーションに頼ると破綻が生じる可能性が高いため、工夫を凝らしてシミュレーションをなるべく使わず、スカートを足に追従させるリグ構造を採用しました。
フェイシャル制作においても、通常の映像制作プロジェクトとのリソース競合という課題に対して、polywinkというフェイシャルターゲット制作サービスを利用することで、解決を図りました。
マリアの「球体関節人形」というキャラクター設定は、3DCGのモデル制作やリグ構築において思いがけず好都合でした。ただし、正確な制作のために関節人形のリファレンスを多く集める必要があり、その点では入念な準備作業が必要でした。
配信の裏側について
マリアの配信システムはUEを基盤とし、モーションキャプチャーにはRokokoのスマートスーツを使用しています。同社はMocapスタジオとして、大規模なパフォーマンスモーションキャプチャスタジオ「オパキス」や、簡易的に少人数の撮影が可能な「シブスタ」といった設備を持っていますが、Vtuberの配信頻度を考えて、少人数でのオペレーションにこだわっています。
配信時にはさらなる課題も出てきました。Rokokoスーツの仕様上、配信時に長時間座りっぱなしの姿勢をとっているとマリアの「絶対位置」がずれていく問題が発生したのですが、これはUE側から補正プログラムを構築することでうまく解決できました。また、キャプチャシステムとCGの連動、UEのオペレーション、配信システムのオペレーションといった複数のマシンにまたがるシステムも、UE上で一元管理できるようにスマートな設計を実現しています。
表情制御も工夫を凝らしていて、Rokokoのフェイシャルトラッキングによるリアルタイムキャプチャーを採用し、くしゃみや顔のしかめ方といったタレントの細かい表情の機微まで表現できるようになっています。実際の配信では、ヘッドバンドにトラッカーを付けて頭の動きを捉え、iPhoneで表情を収録するという、シンプルながら効果的なシステムを採用しています。
現在の配信時には、タレント以外にUEのオペレーター1名が加わる形で運営していますが、理論的にはタレント自身のワンオペレーションでの配信が可能です。
プロジェクトの今後について
最初は、フル3DCGでの制作によるオペレーションの煩雑さを心配する声もありましたが、手間暇をかけた分、マリアの豊かな感情表現や衣装の動きを実現でき、視聴者のみなさまにも価値を還元できていると思います。これからも視聴者からの応援を力に、継続的な調整と改善を重ねていく予定です。
まとめ
本記事を通じて、デジタルドールVtuber「マリア・ブーゲンビリア」の制作について、技術課題に対する解決法、継続的に配信をする為の工夫をご紹介しました。
現在プロジェクトは視聴者さんと一緒に今まで以上に楽しめるような配信内容の検討と並行して配信に関する改善点も併せて調整を進めています。今後の「マリア・ブーゲンビリア」の活動がどう変わっていくのか是非注目してください。