猿をモーションキャプチャでリアルに表現した「猿の惑星/キングダム」

2024年5月10日に公開された「猿の惑星:キングダム」は、全世界で大ヒットを記録しました。SF映画の金字塔と言える「猿の惑星」シリーズの最新作と聞けば、SFファンなら黙っているはずはありません。

本作では、WETAデジタル社が手掛けた最新鋭のモーションキャプチャ技術も見どころです。撮影はパフォーマンスキャプチャが起用され、より繊細でリアルな「猿」の表現に成功しました。

リアルな猿はどうやって描かれたのか、映画に起用されたモーションキャプチャについて取り上げます。

※サムネール(引用:https://www.youtube.com/watch?v=idGp1FHbwV8

目次

世界最高レベルのモーションキャプチャ技術が投入された「猿の惑星」シリーズ

2011年の「猿の惑星:創世記」から、モーションキャプチャは既に導入されていました。

主人公であるシーザーは、知能が高く表情豊かなチンパンジーです。アニマトロニクスや特殊メイクを使う手もありますが、魅力あるシーザーは描けません。そこで白羽の矢が立ったのが、モーションキャプチャでした。

シーザーを演じたのは、名優のアンディ・サーキス。映画「ロード・オブ・ザ・リング」の頃から、モーションキャプチャに携わってきた人物です。

当時としては最新鋭のモーションキャプチャと、アンディ・サーキスの名演が見事に融合し、シーザーを魅力的なチンパンジーとして描き切りました。

モーションキャプチャの技術向上と、アンディ・サーキスの名演は次作「猿の惑星:新世紀」でも発揮。本物の猿と比べても、ほとんど見分けは付きません。技術は到達点に達したと、誰もが思った筈です。

そんな中、前シリーズのモーション技術を軽々と超えてくれたのが「猿の惑星/キングダム」でした。

屋外の撮影も可能!モーションキャプチャ技術の進化

「猿の惑星/キングダム」では、よりダイナミック且つ迫力のある映像に仕上がっています。CGI技術の向上は言うに及びませんが、モーションキャプチャ技術の進化がなければ、本作が日の目を見ることはありませんでした。

「猿の惑星/キングダム」で見られるモーションキャプチャの進化は、屋外での撮影です。映画の撮影で採用されるモーションキャプチャは、光学式になります。赤外線の反射を活用し、俳優の動きをデータ化。データ化した俳優の動きを元にして、キャラクターに動きをつけるやり方です。

光学式は複数のカメラで俳優の動きを捉えるので、高い精度を誇ります。細やかな動きも察知できるため、臨場感のある映像に仕上がるのです。

しかし光学式では、屋外の撮影には向きません。太陽の光が邪魔をして、赤外線が上手く反射しないからです。またキャプチャスーツに装着されているマーカーにより、俳優の動きも制限されてしまいます。

そこでVFXスーパーバイザーのエリック・ウィンとマンは、赤外線LEDライト仕様のマーカーを取り入れました。赤外線LEDライト仕様のマーカーであれば、太陽の光に阻害されることなくデータ送信が可能です。さらにマーカーをスーツに埋め込むことにより、俳優はより自由に動くこともできます。

2台のカメラを使ったフェイシャルキャプチャ

「猿の惑星/キングダム」では、より自然な表情を生み出せるようになりました。自然な表情を生み出したのは、フェイシャルキャプチャの向上があってのことです。

表情の作り込みは「猿の惑星:創世記」で、既に完成はされていました。しかし「猿の惑星/キングダム」と見比べると、どこか硬い印象を受けます。フェイシャルキャプチャで使用するカメラは1台のみで、俳優の表情を平面的に捉えることしかできません。

そこで本作では、2台のカメラでフェイシャルキャプチャを進めることになりました。カメラが軽量・小型化されたことにより、実現可能となったのです。複数のカメラで俳優の顔を捉えるので、立体的な動きも察知できるようになりました。

フェイシャルキャプチャの進化が顕著にでているのが、主人公ノアの顔つきでしょう。映画前半はどこにでもいるような青年の顔つきでしたが、映画が進むにつれて精悍な顔つきに。ノア役を演じた、オーウェン・ティーグの顔の動きを緻密且つ正確に捉えた成果です。

モーションキャプチャとAI技術の融合

キャプチャデータが細かくなればなるほど、マッピングに時間がかかります。そこで、WETAデジタル社が用いたのは「solvers」と呼ばれるAIでした。

solversとは、Wetaデジタル社が独自に開発したAI技術です。solversは取り入れたキャプチャデータを取得し、3D空間に当てはめていく働きがあります。

例えば、にっこり笑うシーンがあったとしましょう。まずは俳優の顔にマーカーをつけて、顔の表情データをフェイシャルキャプチャで取り込みます。solversは取り込んだデータを元に、キャラクターの表情を作成。技術者はsolversがつけた動きに微調整を加え、より深みのある表情へと作り出していきます。

モーションキャプチャは人間だからこそ実現できる技術

AI技術の発達により、モーションキャプチャも大きく様変わりすることでしょう。過去のキャプチャデータを読み込めば、俳優の仕事も必要なくなります。しかしどんなにAIが発達しても、人間らしさを実現するのは不可能です。

AIは「AI」で、与えられた作業だけを淡々とこなす機械にしか過ぎません。「猿の惑星」に登場する猿達はCGで描かれていますが、元になっているのは人間の動きと表情です。

実際に「猿の惑星/キングダム」では、猿の深い表情や動きは人間の技術者が担当しました。人間が手掛けたシーンだからこそ、観客は猿に感情移入し映画に没頭するのです。モーションキャプチャ技術の向上の背景にあるのは、人間の尊厳でした。

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