特集 08:最先端技術を組み合わせて未来の映像を創る ニコンクリエイツにフォーカス!

東京都内のモーションキャプチャスタジオの魅力に迫る「東京モーションキャプチャスタジオ特集」

今回は株式会社ニコンクリエイツを訪問してきました。

ボリュメトリックキャプチャとバーチャルプロダクションを軸に様々な先進技術を組み合わせて新時代の映像制作に挑む、CG映像制作の最前線をご紹介します!

スタジオを案内していただいたのは、事業本部 プロデューサーの詫摩様、制作本部 テクニカルディレクターの三浦様、同じくテクニカルディレクター/CGディレクターの安藤様です。

Information

ニコンクリエイツ
スタジオ情報|https://mocapdb.com/studio/std1572/

〒143-0006
東京都大田区平和島6-1-1 東京流通センターB棟3階
TEL|03-6433-3940

目次

落ち着いた雰囲気のカフェテリア

ドアを抜けると、まずはリラックスした雰囲気のカフェテリアが広がっています。

柔らかな照明と木材の組み合わせに金属のアクセントが利いた美しい部屋は、それ自体がテレビCMのロケーションに選ばれたほど優美!

広いスペースが確保されているので、休憩や会議だけでなく、収録前に機材を組み立てるスペースとしても活用されています。

実写さながらの没入感がある背景を生み出すバーチャルプロダクションスタジオ

最初に案内していただいたのは、バーチャルプロダクションスタジオ

幅10,370mm、高さ4,116mmの巨大なLEDスクリーンは画素ピッチ1.5mmの高画質ディスプレイで、モアレが発生しづらく4K以上の映像も出力可能。

そのため屋外撮影と見分けがつかないほどのリアルな背景を作り出すことができます。

また、収録エリアの左右と天井に設置されているLEDディスプレイは、光源として被写体に背景からの映り込みをつけることで、説得力のある映像を作ることができるようになっています。
ただ照らすだけではなく、たとえば夜の道を走り抜ける時に次々と通り過ぎていく街灯の光の動きなども表現できるので、映像制作の幅が広がりますね。

ちなみにバーチャルプロダクションでは、二つの手法を選択できます。

まずは、スクリーンプロセス。

これは事前に撮影した風景やCGアニメーションをLEDディスプレイに出力する手法です。

タレントさんが直接撮影に行くことが難しいロケーションを映せるほか、自動車が様々な場所を走る映像も作ることができます。

視界を埋め尽くすほどのスクリーンに出力された映像を見ているだけでも思わず足元がふらつくほどの迫力がありますが、光源や送風機、さらにはクルマを載せて傾ける装置など、様々な工夫を凝らしてリアリティを追求しています。

つぎに、インカメラVFXという手法。

こちらはUnrealEngineとRedSpyのトラッキングカメラ、そしてLEDスクリーンを用いてカメラワークに連動するCG背景をリアルタイムにレンダリングする手法です。

この手法では、背景のオブジェクトに視差が生じることに加えてレンズのズームにも連動できるため、とても没入感が高い映像を作ることができるのです。

いずれの手法でも、ディレクターがその場で完成イメージを確認することができるので、素早くリテイクを繰り返してクオリティを追求できることが強みとのことでした。

最新技術を実験的な試みだけに留めず、どのように映像制作に活用できるかを意識してスタジオを設立したニコンクリエイツならではの意見ですね!

ちなみに、ニコンクリエイツのバーチャルプロダクションはトラックドックとして設計されたエリアを活用しているため、巨大なシャッターを隔てて流通センターの搬入通路と繋がっています。

そのためクライアントは自動車で直接スタジオに入り、タレント、スタッフ機材、さらにはCMに使うクルマまでスムーズに現場へ送り届けることができるので、クライアント側からしたら嬉しい設計ですね。

バーチャルプロダクションの実績について伺うと、CMの撮影が最も多いとのこと。

そして、ドラマやMV、場合によってはライブ映像の撮影も行っているそうなのですが、残念ながら守秘義務によってタイトルを教えてもらえない案件がほとんどでした。
私たちが普段から観ている映像作品の中には、バーチャルプロダクションで制作されたものが意外と沢山あると実感しました。

モーションコントロールカメラ「BOLT」

次に見せていただいたのが、モーションコントロールカメラ。

スチル撮影などにも利用されるスタジオスペースの中心に鎮座する巨大な影の主は、ニコンのグループ会社である英国のMark Roberts Motion Control(以下MRMC)社が開発したカメラロボット「BOLT」です。

BOLTのアームの先端にはハイスピードカメラ「Phantom VEO4K」がマウントされていて、1000fpsという驚異的な高速度撮影と人間の腕力では真似できないカメラワークで、被写体のあらゆる瞬間を画面に収めることができます。

しかも、BOLTは移動可能なロボットなのでバーチャルプロダクションスタジオに設置してダイナミックな映像制作に活用できるのが強み。

また、BOLTを制御する「Flair」はこのロボットの軸ごとにキーフレームを設定することで、3DCGアニメーションと同じ発想でカメラワークを構成できるクリエイター目線のソフトウェアです。

ニコンクリエイツは、日本にはまだ少ないFlairのオペレーターが常駐しているだけでなく、MRMCからのサポートも整っているため、国内で最もBOLTを使いこなせるスタジオとなっています。

クリエイティビティを存分に刺激するボリュメトリックスタジオ

最後に案内していただいたのが、ボリュメトリックスタジオです。

ニコンクリエイツのみなさんの試行錯誤によって今もなお成長し続けているこのスタジオでは、円柱状のキャプチャーエリアを何種類ものカメラと照明の組み合わせが取り囲んでいます。

ボリュメトリックキャプチャの手法はスタジオによって様々ですが、ニコンクリエイツでは被写体から点群データを生成して、それをもとにポリゴンのメッシュを作成します。

その精密さたるや、人間がほほ笑んだ時の目元や、薄いシャツがダンスによって揺れる時の細かい皺までポリゴンによって立体的に再現されているほど。

ニコンクリエイツのボリュメトリックスタジオでは、アクティングエリアを囲む8方向に12台ずつ96台と、天井に10台、合計106台のカメラを設置しています。

さらに、スタジオ内のポールには複数種類のカメラが組み合わせて設置済み。

これはクライアントからの要望を受けて重ねた試行錯誤の結晶ですね。

収録中にアクティングエリアの様子を確認できる4K・30pのビデオカメラと、プロップなどの動きを記録するための光学式モーションキャプチャーカメラOptiTrackが、よりクオリティの高い映像づくりを可能にしています。

ボリュメトリックスタジオに施された独自の工夫

ここではニコンクリエイツのボリュメトリックスタジオに施された工夫を紹介します!

まず、防音・防振仕様の床。

この床は演奏の収録に対応できることに加えて、床の振動を吸収することでカメラのキャリブレーションが狂ってしまうことを防いでいます。

次に、天井に設置されたマイク。

こちらは収録時の音声を記録して、後の工程でガイドとして使えるようにしています。

最後に、被写体に陰影がつきにくいフラットな照明。

これは、ボリュメトリックキャプチャによって生成される3Dデータのテクスチャに陰影が映らないようにすることを目指しています。

もしかしたら「なぜ陰影が付いてはいけないの?」と疑問に感じたかもしれません。

実は、後の工程でカメラワークだけでなく、ライティングまで自由に設定できるようにするための工夫なのです!

ニコンクリエイツの皆さんに一問一答!

スタジオ設立のあらましを教えていただけますか?

(詫摩さん)2022年に、株式会社ニコンクリエイツの設立と同時にスタジオを立ち上げました。

「空間映像」をキーワードに、カメラメーカーとしてクリエイターとともに新しいものを作っていくことを目的としたスタジオを目指しています。

スタジオの特徴を教えてください!

(三浦さん)ボリュメトリック、バーチャルプロダクション、BOLTの組み合わせを活かして様々なコンテンツを作れることが特徴です。

これらの設備に刺激を受けて今までにないアイデアを生み出せる、次世代のクリエイターとの共創がコンセプトですね。

今後はどのような機材を導入・開発していきたいと考えていますか?

(詫摩さん)新しいものを導入するよりも、まずはここにある設備・技術を尖らせていって、クリエイターに活用してもらいたいと考えています。

今はモノよりも、技術と人を育てることに注力していますね。

ニコンクリエイツさんが得意な分野を教えてください!

(詫摩さん)ボリュメトリック、バーチャルプロダクション、BOLTといった様々な技術を組み合わせて、これまでにないコンテンツ制作を提案できることが強みです。

印象深かったお仕事のエピソードを教えてください!

A:(三浦さん)Def TechのMV撮影です。

このMVではサビの部分に決まった振付を使うのですが、演者さんがスタジオに到着してからも練習しながら収録に臨むことになりました。

 そこで、ボリュメトリックの強みである、カットごとにカメラや照明を再配置する必要がないことを活かして、演者さんの撮影に集中することができたため、スピーディーに収録を進めることができました。

 一人当たりの収録時間がリテイクを含めて1〜2時間で収まったのは、ボリュメトリックならではのスピード感でしたね。

これからどのような方とコンテンツを作っていきたいですか?

(詫摩さん)「次世代クリエイター」です。

デジタルネイティブ世代の、このスタジオにある設備を見てワクワクしながら新しい知識を取り込み、これまでにないアイデアを生み出していくような人と共創していきたいですね。

最後に、ボリュメトリックのここが好き、というポイントを教えてください!

(安藤さん)撮影がスピーディーなところです。

ボリュメトリックなら被写体を収録するだけで後から自由にカメラワークやライティングを作ることができるので、機材の組み立てやセッティングといった前準備に時間をかけることなく収録を行なえます。

これによって、収録後の工程により多くの時間を配分することができるので、より完成度が高いコンテンツを制作できることが魅力だと感じています。

また、複数の演者さんが個別のスケジュールで収録して、合成で一つの映像を作れることも、他の手法にはない強みではないでしょうか。

(詫摩さん)それに加えて、ニコンクリエイツではニコンのR&Dチームと連携して技術検証を行っているため、年々品質が上がり続けていることも魅力です。
ボリュメトリックキャプチャのリアルタイムプレビューも、クライアントに応えてニコンが独自に構築したシステムなんですよ。

最後に

今回はボリュメトリックスタジオの取材に行くぞ!という気持ちで現場に向かいました。

現地に到着すると、ニコンクリエイツが誇る様々な技術をすべて見せていただき、その素晴らしさに圧倒されました!

ホームページなどでも紹介されているDef TechのMVでも、ただボリュメトリックキャプチャを前面に押し出しただけの映像ではなく、バストアップのカットにはバーチャルプロダクションを活用するといった技術の組み合わせが活かされています。

このことからも、ニコンクリエイツは一つの技術の研究に拘泥するのではなく、次世代のクリエイターとの共創のために技術を磨いていることが伝わってきます。

また、ニコンクリエイツの皆さんからは、ボリュメトリックに初めて触れるディレクターが多いというお話と、これからボリュメトリックを使って”バズる”コンテンツを作っていきたいという意気込みが伺えました。

新機軸の映像スタジオとして、新時代のコンテンツ制作を率いていくという強い意思を今回の取材で感じられました!

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